米国の財務長官経験者、ジョージ・シュルツ(ニクソン政権)、ロバート・ルービン(クリントン政権)、ヘンリー・ポールソン(ブッシュ政権)の3人は7月20日、気候変動が企業に与える影響を詳細に情報開示することを企業に求める書簡を連名で発表した。米証券取引委員会(SEC)は現在、1933年証券法および1934年証券取引法に定められた非財務重要事項の開示に関する規定(レギュレーションS-K)の見直しを検討しており、広くパブリックコメントを募っている。今回の財務長官経験者の共同書簡はこれに答えたもの。書簡では、気候変動は現存するもっと大きな経済リスクになっていると認識し、各企業が抱える気候変動リスクを開示義務化されている他の非財務重要事項と同様に、企業は開示すべきだとした。
3人の元財務長官は、これら気候変動リスク対策のため、かねてからリスキービジネスプロジェクト(RBP)に参加し、アドボカシー活動を展開している。書簡の中では、RBPが各業界ごとに抱える気候変動リスクの内容を踏まえて研究成果を例として紹介した。
1.農業
熱波、高温、多湿など極端な気候が経済界の生産性やサプライチェーンに著しく影響を及ぼしうる。RBPの研究によると、米国東南部の州、グレートプレーン南部や中西部ではトウモロコシ、大豆、綿花、小麦など穀物の年間平均収穫量を50%から70%失うリスクを抱えている。
2.住宅・商業不動産
水位上昇や嵐の発生増加により海岸沿いの不動産やインフラストラクチャーに重大な影響を及ぼす。現状のまま対策を打たなければ、今世紀半ばには東部沿岸地の相当部分の不動産が損失を受けうる。
3.製造業
極端な熱波、高温、海面水位上昇によりサプライチェーンと労働生産性に大規模な混乱が生じる可能性がある。とりわけ、多くの工場が米国東南部の高リスク地域に立地している。
米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の最近の調査では、気候変動は全79業種のうち72業種、アメリカ株式市場の93%、33.8兆米ドルに上る重大な財務的影響を及ぼすと明示している。
今回発表された書簡では、現在の1934年証券取引法でも重要な非財務リスクの情報開示を求めているが、企業の公開情報は決まり文句の羅列ばかりがされているのが現状で、投資家の必要とする情報を欠いたまま進まないであろうとしている。SECは2010年、洪水や干ばつを含む気候変動とその物理的影響の情報公開に関する規制についてガイダンスを発表。書簡ではこのガイダンスを肯定的に受け入れた上で、有意義な情報公開を義務化するよう求めるとともに、さらに気候変動リスクの説明に関する業界ごとのガイダンスをSECが発行するよう提案を行った。投資家が気候変動リスクの評価を行うには、地域ごとや業界ごとの影響を理解する情報公開基準が必要となるためだ。
気候変動リスクに関する情報公開は世界中で大きなイニシアティブが実施されているが、回答するか否かは企業の自主判断に任されるところが大きい。アメリカでの法的義務を負った情報公開規制がなされるかどうか、注目が集まる。
【共同書簡】Comment Letter from Paulson, Rubin, Shultz on S7-06-16
【機関サイト】Risky Business Project
【参考ページ】SECパブリックコメント コンセプトリリース
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