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【イギリス・オランダ】シェル、気候変動2℃目標に向けた社会シナリオを発表

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 石油世界大手のロイヤル・ダッチ・シェルは5月上旬、昨年国際合意に至った「パリ協定」での合意点を前提としたシナリオ示す文書「A Better Life With a Healthy Planet」を公表した。同社はこれまで「地球の気温上昇を産業革命以前と比較して2度未満に抑える」ことは実現が困難として、自社のシナリオ作成の際にもそれを前提としてこなかった。背景について、英環境メディアのCarbon Briefは、気候変動に関する情報開示を株主が迫ったことがあると分析している。

 今回、シナリオを予見する文書を発表した背景には、同社がお家芸としている「シナリオ・プラニング」という経営戦略手法がある。シナリオ・プランニングとは、不確実性の高い将来に対応できる経営戦略を策定するため、社会情勢の変化に合わせた複数のシナリオを予見し、それぞれのシナリオに対応できる準備を事前にしておくというものだ。同社は1973年に最初となるシナリオ・プランニングを実施し、オイルショックという先を見通せないタイミングで、見事に難局を乗り切った。気候変動対策時代におけるシナリオ・プランニングは今回が初ではなく、2011年に実施し、「ニューレンズシナリオ」という文書を公表していた。この度発表された「A Better Life With a Healthy Planet」は、「ニューレンズシナリオ」の補足修正文書という位置づけた。

 ロイヤル・ダッチ・シェルが「A Better Life With a Healthy Planet」の中で示した基本的な考え方は、パリ協定で合意された2℃目標は、実現は可能だが、道のりは極めて険しいというものだ。発展途上国の市民が先進国と同等の生活を望みエネルギー需要は今後も伸びていく中、同時に温室効果ガスの削減を実現することは大々的な変革が必要だと指摘。とりわけ、産業や交通分野での利用される化石燃料エネルギーの削減は難易度が高く、比較的な容易な電力エネルギーを化石燃料依存から脱却し、再生可能エネルギーや原子力に転換、その上で石炭、天然ガス、さらにはバイオマス火力発電の割合も減らしていかなければいけないと断じた。また、交通分野でも長距離輸送ではエネルギー密度の高い化石燃料が必要となるが、それ以外では水素エネルギーによる輸送を実現しなけれべならないという見方を示した。そのような状況下で、温室効果ガス排出量そのものをゼロにすることは非現実的であり、産業・交通分野での排出を、他の分野でマイナスにする「ネット(純)ゼロ」を提唱、CSS(炭素回収貯留)技術開発が不可欠だと分析した。

 政策面では、1)新たな低炭素原材料や技術への転換を可能にするインフラ構築を促す長期的政策 2)カーボン取引、税制、二酸化炭素排出基準の規定等の手段を通しての、経済全体にわたる炭素税の制定、3)低炭素化への転換に伴う、特に最も脆弱な経済分野や社会階層への負の影響の軽減、4)実効性のある低炭素関連のリサーチや実践の展開に向けた主要分野への支援や刺激策、特に初期段階での経済的支援等を挙げた。

 また、文書の中では、他の研究機関が発表した、地球温暖化抑制目標に応じた温室効果ガス排出ネットゼロの実現必須時期を紹介した。それによると、3℃目標のためには2100年代早期にネットゼロに、2.5℃目標のためには2100年までに、2℃目標のためには2070年頃までに、1.5℃目標のためには2050年頃までにネットゼロにし、それ以降は炭素固定化を進め温室効果ガス排出をマイナスにしなければならない。パリ合意で示した2〜1.5℃目標の実現のためには、特効薬はなく、可能な手段を全てとり続けていかなければならない。今回の文書の中で同社は、全ての側面で最良の結果が得られる状況を、英語圏で有名な童話の主人公の名から「Goldilocks」と命名し、もしそれが実現できれば2100年より前にネットゼロが可能かもしれないと述べている。

 だが、ロイヤル・ダッチ・シェルが今回示した今回の文書は、あくまで同社が将来に向けての社会シナリオを示したにすぎない。今回の文書の中では、起こるであろう未来を予測したものでも、同社自身の経営の方向性を示したものでもなく、同社自身の覚悟が見えないという批判も出ている。同社が、今回のシナリオ分析をもとに、どのような目標を設定しアクションを起こしていくのか。同社の今年の株主総会は5月24日に開かれる。

【参照ページ】A BETTER LIFE WITH A HEALTHY PLANET
【参考ページ】ニューレンジシナリオ
【参考ページ】Shell outlines “below 2C Climate change scenario

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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