国際的なサステナビリティ報告基準策定のGRIと、ESG投資格付機関大手のRobecoSAMは5月3日、企業と投資家のマテリアリティ目線が一致しているか否かを調べた報告書「Defining What Matters: Do companies and investors agree on what is material」を共同で発表した。アルミニウム製造世界大手のアルコアが設立したアルコア財団が調査資金を寄付した。報告書では、企業と投資家の目線は概ね一致していると結論づけた。
調査ではまず、GRI G4のマテリアリティ特定手法と、RobecoSAMが推奨しているマテリアリティ特定手法の比較を実施。企業が自社のマテリアリティを把握するために使われているGRI G4の分析マトリックスでは、横軸を企業にとって与える社会・環境・経済的なインパクトの大きさ、縦軸をステークホルダーの関心度合い、各イシューをプロットしてマテリアルな課題を特定する。一方、投資家目線が主体のRobecoSAMのマテリアリティ特定手法は、よく軸にインパクトの大きさを、縦軸に発生確率を置いており、より財務的なインパクトを計測しやすいものとなっている。報告書ではGRI G4の手法を「報告のためのマテリアリティ」、RobecoSAMの手法を「財務マテリアリティ」と名付け、差異を明確にした。
その上で調査では、それぞれ2つの手法を通じて、鉱業、金属業、電力事業の3つのセクターの合計129社が発行しているサステナビリティ報告書を読み解き、企業自身が認識しているマテリアリティと、各セクターへのファンドマネジャーが重視しているマテリアリティが一致しているかどうかを確認していった。結果としては、電力事業では多少の乖離が見られたものの、両者はほぼ一致していた。このことから、GRI G4のマテリアリティ特定手法が、投資家目線からも有効であることが示された。また、投資家目線から見た場合、企業のサステナビリティ報告に関する課題としては、情報開示事項が経営戦略とどのように結びついているかを明確にすること、機会とリスクに関する分析をより詳細に説明することを挙げた。
マテリアリティ特定には一義的なベストな手法は存在しない。例えば、航空会社は昨今化石燃料からの代替エネルギーを模索しているが、空港付近に住む住民の視点では毎日の騒音が最も大きな関心を寄せているかもしれない。RobecoSAMの手法は投資家目線に主眼をおいたマトリックスとなっているが、GRI G4のマトリックスでは、投資家は一(いち)ステークホルダーに昇華され、他のステークホルダーの関心度合いとともに縦軸に表現されている。そのため、GRI G4のマトリックスで投資家目線を重視するか否かは、企業がどのステークホルダーを重視して縦軸を設定するかにかかってくる。この場合考え方は2つある。1つめは、既存の投資家の視点を重要なステークホルダーとして認識する方法だ。投資家からのインタビューなどを通じて投資家の関心事項を縦軸に強く反映させればいい。もうひとつは他のステークホルダーの関心をより尊重して縦軸を設定し、そこから抽出されるマテリアルな事項に理解を示す株主を新たにつけるという方法だ。欧米のグローバル企業の中では、この観点から最近「株主の多様化」「企業も株主を選ぶ」というような主張が増えてきている。
【参照ページ】New RobecoSAM study reveals GRI Standards fit for investmentgrade disclosures
【報告書】Defining What Matters: Do companies and investors agree on what is material
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