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【エネルギー】世界の風力発電導入量とビジネス環境 〜2015年の概況〜

風力発電

風力発電は再生可能エネルギーの中で最大規模

 大きな風車が象徴的な風力発電。風力発電は気象現象として気圧差から発する風力を、風車で捉えてタービンを回し、その動力エネルギーを電力エネルギーに変える発電手法です。従来の化石燃料エネルギー型発電と比べ、二酸化炭素の排出量が著しく小さく、気候変動を抑制する効果が大きいとされています。

世界の再生可能エネルギー発電量
(出所)IEAのデータをもとに、ニューラル作成

 一般的に再生可能エネルギーには、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電、地熱発電、潮力発電、バイオマス・廃棄物発電の5種類がありますが、これまでの導入実績は大きく異なります。再生可能エネルギーの中で最大規模の発電量を誇るのは風力発電。2013年の世界全体での風力発電電力量は年間63万GWh、世界の年間総発電量の2.7%を占めています。また、再生可能エネルギー発電量全体を分母とすると、約半数の48.4%を占めています。風力発電の特徴のひとつに海上での発電が可能だというものがあります。そのため、洋上風力発電は、世界の広大な海を発電所に変えることができるため、候補地となる面積が広大。風力発電は、今後、再生可能エネルギーの中で最も伸びる分野だとも言われています。

風力発電の増加率は過去20%以上を超え、今後も増加傾向は続く

世界の風力発電設置容量の推移
(出所)GWECのデータをもとに、ニューラル作成

 世界の風力発電に関する統計は、世界風力エネルギー会議(GWEC)がデータを集めています。GWECの報告書によると、風力発電の設備容量は、2001年から平均20%以上の年間成長率で増加してきました。また今後も2020年まで約13%の成長率で伸びるという予測も立てています。風力発電設備が20%成長を続けているということは、産業全体としても20%伸びているということです。つまり、風力発電の設備メーカー、建設事業者も同様に業績が拡大し、雇用も創出されています。

中国の導入量がヨーロッパを抜いた

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(出所)GWECのデータをもとに、ニューラル作成

 世界の風力発電を牽引しているのは、今や中国です。風力発電は2000年前後から米国、ドイツ、スペイン、デンマークの4カ国がリードしてきました。特にドイツ、スペイン、デンマークは環境政策の一環として再生可能エネルギーに注力、風力発電の建設が急速に増加しました。2005年からはそれに加え、 イギリス、イタリア、フランス、ポルトガル、スウェーデン、オランダといったEU諸国も追随、またこの頃から経済発展に応じて急速に電力需要が増加した中国とインドでも導入量が増えていきます。日本は2004年時はイギリスに次ぐ世界第8位の風力発電国でしたが、その後は新規導入量が停滞。2015年時点では世界第18位にまで後退しています。今日、風力発電はEU諸国と北米、そして世界の人口大国である中国、インドが牽引しています。また、ブラジル、トルコ、ポーランドなど新興国も積極的に風力発電を伸ばしています。

ヨーロッパでは風力発電が幅広く浸透

各国の風力発電の状況
(出所)GWEC、IEAのデータをもとに、ニューラル作成

 これまで風力発電の中心地域はヨーロッパでしたが、2015年に中国がEU28カ国全体の風力発電設備容量を超え、世界のリーダーとなりました。中国は2015年時点で世界の1/3の風力発電設備が設置されています。中国の風力発電割合は2.7%、EUの7.2%には及びませんが、日本の0.5%より高い水準です。同じく風力発電導入量が増えているインドは、2015年にスペインを抜き世界第4位となりました。

 洋上風力の分野では、世界の9割以上の設備はEU諸国に偏在しています。特にイギリスが牽引しており、イギリスだけで世界の4割以上を占めています。また、イギリスの風力発電設備全体に占める洋上風力の割合も37%と高く、イギリスは洋上風力に注力していることもわかります。その他、ドイツとデンマークを足した3ヶ国の世界シェアは約80%、洋上風力は北海・バルト海で占められています。一方で、他の風力大国であるアメリカ、インド、スペイン、カナダ、フランスなどでは洋上風力は全く進んでいません。

 風力発電が全発電に占める割合ではドイツ、スペイン、ポルトガル、デンマークという国で非常に高い数値が見られます。特に、スペイン、ポルトガル、デンマークでは上記の推移グラフで近年導入量が停滞しているのがわかりますが、その背景にはすでに風力発電での発電シェアが高い水準にあるためということが言えます。

風力発電の種類(陸上・着床式洋上・浮体式洋上・小型)

陸上風力発電

陸上風力発電

 陸上風力発電は、風力発電の中で最も伝統的なタイプです。日本でも山間部や海外付近で風車が回転しているのをご覧になったことがある方も多いと思います。今でも世界の風力発電全体の95%以上はこの陸上風力発電です。発電機にとって命となるのは発電効率。風力発電の場合、発電力は、(1)風速の3乗、(2)風力発電の羽(ブレード)の受風面積、に比例し、すなわち風がたくさんある環境の立地であることが最も重要で、さらにその地に羽の大きな風力発電を建てるほど発電力が高まることになります。一般的に風が強い場所は、山頂と海岸。そのため、山頂と海岸が風力発電の候補地として検討されています。

 風力発電が太陽光発電と大きく異なるのは発電設備の規模。太陽光が基本的に太陽光パネルを設置しさえすれば、どこでも太陽光発電が可能となるのに比べ、風力発電を効率よく行うには大きなブレードが必要とあり、自ずと発電設備が大型となります。結果的に、広い用地となります。その上、製造場所と設置場所が離れていると膨大な輸送コストもかかります。したがって、山頂部は風が多い反面、平面の場所が少なく、輸送コストもかさむため、経済合理性からみてあまり設置には適しません。また、大きな羽を陸上輸送する場合、風力発電の一基あたりの出力容量は2MWが限界とも言われています。

 陸上風力発電にはさらなる制約があります。落雷や台風など自然災害の多い地域では、風力発電の破損による事故の観点から立地には適しません。また、国立公園などでは景観の観点から風力発電の設置が禁止されている国も少なくありません。風力発電は再生可能エネルギーの中でも発電効率が良く注目されてきましたが、陸上の設置には制約が多い。そこで新たに注目を集めているのが、洋上風力発電です。

着床式洋上風力発電

着床式洋上風力発電

欧州の洋上風力発電導入量推移
(出所)EWEA

 着床式洋上風力発電は、水深20m以内の遠浅の地形を活かした海の上の風力発電です。海上は陸上に比べて風が強く、設置のための輸送制約も少なく、より大型のブレードを用いることも可能なため、発電力の高い風力発電が実現できます。洋上での発電効率は陸上の1.5倍とも言われています。さらに、海上は人間社会からの距離もあるため、社会的な制約も少なくなります。こうして、着床式洋上風力発電は、2011年末の時点で設置容量は4,096MWに到達。割合は風力全体の2%と小さいですが、今、ヨーロッパで急速に増加しています。

 ヨーロッパで洋上風力が伸びている背景には、遠浅の地形が多いという地理上のメリットがあります。特に力を入れているのがイギリスとデンマーク。とりわけイギリスは単独で着床式洋上風力発電の40%を占めています。さらにイギリスでは数百MWの大規模洋上風力発電プロジェクトが次々と始まっており、風力発電をまだまだ増加させる見込みです。日本もこの洋上風力に力を入れています。すでに、北海道、山形県、茨城県、千葉県、福岡県で、1GW〜3GW程度の着床式風力発電所が営業運転されていますが、ヨーロッパ諸国と比べると規模の見劣りは否めません。そんな日本でも、茨城県鹿島港で100MWの大規模洋上風力発電がソフトバンクや丸紅の出資で建設されています。

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(出所)Crown Estate

浮体式洋上風力発電

浮体式洋上風力発電
(出所)国土交通省

 浮体式洋上風力発電は、最新の手法で、現在、実用化に向けた実証研究がノルウェー、ポルトガル、日本などで行われています。浮体式洋上風力発電の特徴は、浮いているということです。風力発電の発電効率をより高くするには、風がより強い沖合へと出て行く必要がありますが、沖合は水深が深く、着床式で海底に固定するためには大規模な構造物と工事を要し、非常にコスト高となってしまいます。沖合は水圧も強く耐久性も問題となります。そこで考案されたのが、海底に固定させずに洋上に浮かべる風力発電です。

 この浮体式洋上風力発電を熱心に推進しているのが日本です。着床式洋上風力発電は水深50mを超えるとコストが跳ね上がるため、ヨーロッパと違って遠浅が少ない日本は着床式洋上風力を推進しづらい。そこで、水深50m~200mで実現可能と言われる浮体式洋上風力を用いて、一気に遅れを取り戻そうとしています。それを具現化したのが、福島洋上風力コンソーシアム。日本政府が、東日本大震災後の2011年度第3次補正予算で福島復興のために125億円を計上し、丸紅、東京大学、三菱商事、三菱重工業、アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド、三井造船、新日本製鐵、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研の11社からなるコンソーシアムが、経済産業省から委託を受けて進めています。使われるブレードは、三菱重工業が同じく政府の助成金を受けて開発した一基7MWという世界最大級のものが使われる予定です。

日本の風力発電導入ロードマップ
(出所)日本風力発電協会。日本の将来展望を示したもので計画値ではない。

 浮体式洋上風力発電の実用化には多くのハードルがあると言われているのも実状です。日本政府は7MWブレードの実績を引っさげて新たな産業育成にしようとも考えていますが、世界には有力な風力発電メーカーが多数あり、日本企業は遅れをとっているのも事実。風力発電という領域で、日本政府や日本企業が注目されるようになるには、まだまだ努力が必要なようです。

小型風力発電

小型風力発電
(出所)ウィンドパワー社

 本稿では触れていませんが、太陽光発電と同様「どこでも型」の風力発電として考案された小型風力発電というものもあります。小型で設置が容易なため、発展途上国など電気がまだ届いていない山間部の地域や遊牧民族用の電力として期待されています。街灯や公園などで見かけることがありますが、やはり発電力が小さく補助電源レベルに留まっており、送電網でグリッド接続されているのは多くはないのが現状です。まだ風力発電の柱のひとつして認知されるまでには時間がかかりそうです。

世界の風力発電メーカーの顔ぶれ

 風力発電と太陽光発電の違いは、機器の構造にもあります。太陽光発電は太陽光パネルとバッテリーとそれを支えるフレームという非常にシンプルな構造をしているのに対し、大型化が進む風車設備は、電気機器、制御装置、駆動部、ブレードなどが凝縮された電気工学・機械工学の結晶。大型風車一基あたりの部品は2万点近くにものぼり、自動車産業にも匹敵すると言われています。そのため、風力発電産業は産業としても大規模となり、多数の雇用を生むとも言われています。

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(出所)Nagigant Research、2014年の数値

 世界の風力発電メーカーの競争は激化しています。上位を占めるのは欧州勢で、1位は老舗のデンマーク・ヴェスタス社。1945年に風力タービンメーカーとして誕生し、1979年に風力発電機を製造開始。2012年時点では、累積で世界70ヶ国、46,000基以上の風力タービンを設置。2014年には世界最大8MWの風力タービンV164の試験発電を開始し、歴史・技術力ともに高い実績を誇っています。2位は老舗の独シーメンス社、洋上風力で特に強い存在感を示しており、欧州の洋上風力の約2/3はシーメンス製です。3位は、世界的な総合電機メーカーのGE、早くからで風力発電設備を手掛けており、シーメンスと同様老舗ブランドです。4位は新興の中国Goldwind社、高まる中国内需を後ろ盾にしつつ、低コスト戦略で海外市場でも力を伸ばしています。5位にはドイツのエネルコン社、7位米国のユナイテッドパワー社、8位スペインのガメサ社と風力発電の導入量が多い国の企業が並びます。また、新興勢力としては6位のインド・Suzlon社、8位の中国・明陽風電(Ming Yang Wind Power)の姿も見られます。老舗メーカー、新興メーカーともに、近年同業企業の買収合戦が展開さており、各社生き残りをかけ規模の拡大を続けています。

 日本で風力発電を手がけているのは、三菱重工業、日本製鋼所、日立製作所の3社。数年前までは10位以内にランクインしていたのですが、近年、中国勢に押され、残念ながらマーケットシェア上位企業から姿を消してしまっています。日本国内の風力発電にも海外製のものが多数採用されているのが現状です。日本企業が生き残るためには、福島洋上風力コンソーシアムで高い実績を上げるともに、海外での販売力の強化や、海外M&Aが必要となります。このような市場環境下で、三菱重工業はトップのヴェスタス社と洋上風力発電事業に特化した合弁会社「MHI Vestas Offshore Wind A/S」を2014年4月にデンマーク・オーフス市に設立、両社の洋上風力発電設備事業を分割集約しました。

風力発電と証券化ビジネス

 繰り返しになりますが、風力発電は太陽光発電と異なり、大規模投資事業となります。そのため、風力発電の建設は、従来は国家予算がサポートして実現していました。しかし欧米ではすでに新たな時代に突入しています。民間資金の活用です。世界には国家予算の何倍もの投資資金が運用されています。投資家にとって、魅力的な投資先とは、長期にわたって安定的にキャッシュを生み、リターンをもたらしてくれる事業。人間社会にとって今後数十年は電気が必要であることは確実で、電気料金が大きく減少するリスクも少なく、売電事業は投資家にとって魅力的に映る事業です。さらに、近年、投資家たちは社会にとって価値のある事業を投資先に選定する傾向があり(世界と日本のSRI・ESG投資最前線)、売電事業は投資先としてますます魅力的になっています。

発電事業の証券化
(出所)環境省

 大規模な風力発電事業の資金調達には、証券化という金融手法が活用されています。証券化とは、プロジェクト単位で資金調達を行う手法のことです。発電事業を運営する企業(例えばソフトバンク)とは切り離された特別目的会社(SPV)を設立して倒産リスクを隔離し、SPVが発電事業を行います。こうすることで、今後発電事業を運営する企業がどうなろうとも、投資家は安心して発電事業からの収益を期待できます。SPVには、事業を運営する企業の他、投資銀行や商社、ファンドが出資し、さらに銀行がシンジケートローンを組んでレバレッジドファイナンスを実施します。こうして、年間キャッシュフローの何倍もの大規模な資金調達が可能となっています。近い将来、国内でも再生可能エネルギーを対象とした上場ファンドが誕生するとも予想されます。

風力発電と事業会社サステナビリティ

 比較的導入が容易な太陽光発電は、日本国内でも固定買取価格制度の開始ともに普及しましたが、風力発電はなかなか普及してきませんでした。原因には立地制約、投資規模、プロジェクト規模などが関係しています。事業会社がCSRの一環として風力発電に取り組もうとしても、事業所内に風力発電に優れた立地はあまりなく、あったとしても膨大な投資額にリスクを取れないという状況に陥りがちです。実際に、エネルギーに対するサステナビリティの取組が多い欧米でも、風力発電を事業会社が自らの施設内に建設する企業は極めて少なく、辛うじて米Safewayなどが大規模店舗に風力発電を設置している程度です。一方で、RE100など再生可能エネルギー100%での事業運営を目指すグローバル企業たちは、昨今風力発電からの電力の購入を積極的に進めています。

電源別発電コスト
(出所)日本政府エネルギー・環境会議

 再生可能エネルギーの中でも風力発電が注目されている理由には、その発電コストの低さがあります。風力は、太陽光やバイオマスより発電コストは格段に安く、好立地での風力発電は火力発電と同等です。ヨーロッパでは、風力発電が、従来型の化石燃料の発電コストを下回るグリッド・パリティをすでに迎えた地域もあります。資本効率の良い風力発電は、エネルギーのサステナビリティを高める上で欠かせません。そこで、事業会社のサステナビリティとして可能なことは、第一に自社の電力割合における風力発電の割合を高めていくために、風力発電電源の電力を積極的に購入することです。欧米のグローバル企業では、事業用電力のサステナビリティを高めていくため、事業用電力における電源別割合を公表し、再生可能電源のシェア目標を具体的に設定しています。さらなるステップとして、米グーグルのように風力発電ファンドを組成したり、ファンドに出資していくことも可能です。風力発電は、規模の大きなサステナビリティ事業であるからこそ、複数社が協力して大きな安定電源を獲得していくというアクションが必要なのです。

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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