生物多様性は、様々な生き物の豊かな個性と、そのつながりのことです(環境省HPより)。1992年に国連で採択された生物多様性条約では、生物多様性には3つのレベルの多様性がある、と定義づけられています。3つのレベルとは、下記3つです。
- 生態系の多様性(森林、里山、河川、湿原、干潟、サンゴ礁などの多様性)
- 種の多様性(動植物、微生物など地球上の様々な種の多様性)
- 遺伝子の多様性(同じ種でも異なる遺伝子を持っていること)
なぜ生物多様性が重要か
生物多様性は、人間に生態系を通じたサービス、健康や医療への恩恵をもたらしています。
生態系サービスとは、普段食べている魚や貝、紙や建材になる木材、水や大気、海や森による気候を安定させる役割などの様々な資源、サービスのことを指します。WWFによると「IUCN(国際自然保護連合)の試算によれば、生態系がもたらしているこれらのサービスを、経済的価値に換算してみると、1年あたりの価格は33兆ドル(約3,040兆円)」にも上るそうです。
健康や医療への恩恵とは、地球上に存在する動植物からできた医薬品、すばらしい自然環境によりもたらされる心の安らぎなどです。事実、今まで5万種から7万種もの植物からもたらされた物質が、医薬品に使われてきました。
生物多様性の損失は、そうしたサービス、恩恵がなくなっていくことを意味するため、生物多様性は、人間が生きていくために重要な要素なのです。また、人間だけでなく、地球には様々な動植物が生きており、そうした生き物みんなが良いバランスを保って繁栄し続けるためにも、生物多様性は大切です。
歴史
「生物多様性(biodiversity)」という言葉は「生物学的多様性 (biological diversity)」を意味する造語です。
「生物学的多様性 (biological diversity)」という言葉自体は1968年に科学者Raymond F. Dasman氏が著書『A Different Kind of Country』で自然保護を訴える中で初めて使われ、環境保護における大事な考え方として、その後、浸透していきました。
その流れを受け、1985年にW.G. Rosen氏が、アメリカ合衆国研究協議会(National Research Council, NRC) による生物学的多様性フォーラムの計画中に「生物多様性(biodiversity)」という造語を生み出し、以後、世界中に広まりました。
数年間は定義があいまいな部分がありましたが、1992年にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)」で「生物多様性」は次のように定義されました。
すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む
1993年には国連で生物多様性条約が発効。締約国を中心に活発な議論、環境政策が実施されています。絶滅の危機に瀕する種が増えている現在、生物多様性の重要性はますます高まることでしょう。
生物多様性条約
生物多様性条約は1992年の地球サミットで条約に加盟するための署名が開始され1993年に発効しました(締約国:193カ国とEU)。この条約は地球規模で生物多様性の保全を目指す、唯一の国際条約として、年々、その重要性を増しています。主な目的は下記の3つです。
- 生物の多様性の保全
- 生物多様性の構成要素の持続可能な利用
- 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分
この条約では、生物多様性に関する情報交換や調査研究を各国が協力して行うことが述べられています。それに加え、先進国の資金で開発途上国の取組を支援する資金援助と技術協力の仕組みがあり、経済的・技術的な理由から生物多様性の保全と持続可能な利用のための取り組みが十分でない開発途上国に対する支援が行われることになっています。また、締約国は定期的に締約国会議をおこなっており、生物多様性条約に基づき自国の環境政策を決めています。
近年の世界の動き
2002年のCOP6で「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」を含む戦略計画が採択され、この目標の達成に向けた努力が世界各地で行われてきました。しかし、「2010年目標は達成されず、生物多様性は引き続き減少している」と結論付けられました。
そうした危機感を世界中の国々が共有するなか、2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)で「生物多様性を保全するための戦略 計画2011-2020」が採択され、2020年までに生物多様性の損失を食い止めるための緊急かつ効果的な行動をとることが 合意されました。そのための行動が20個まとめられ、愛知目標(愛知ターゲット)と名付けられました。また、2011年から2020年は「生物多様性の10年」にする、と国連で採択され、現在まで国連、各国政府、市民等がそれぞれの立場で愛知目標の達成、生物多様性の損失の阻止を目指して行動しています。
日本の現状
日本では、日本の生物多様性に関する政策の根幹を定める法律「生物多様性基本法」が2008年にできました。この法律により、初めて幅広い範囲で野生生物を保護することができるようになりました。また、開発計画を立てる際に環境アセスメントを行うことが義務付けられるようになったため、大型開発の環境破壊などが食い止められるのでは、と期待されています。
近年では、2010年に採択された愛知目標を達成するために「生物多様性国家戦略2012-2020」を2012年9月に閣議決定しました。「生物多様性国家戦略2012-2020」では「愛知目標の達成に向けた我が国のロードマップ」を提示すると共に、2020年度までに重点的に取り組むべき施策の方向性として「5つの基本戦略」を設定しています。
5つの基本戦略とは(環境省HPより引用)
(1)生物多様性を社会に浸透させる
(2)地域における人と自然の関係を見直し・再構築する
(3)森・里・川・海のつながりを確保する
(4)地球規模の視野を持って行動する
(5)科学的基盤を強化し、政策に結びつける(新規)
そして「愛知目標の達成に向けたロードマップ」の実現に向け、今後5年間の行動計画として約700の具体的施策を記載し、50の数値目標を設定し、実践しています。
課題、批判
■研究分野の偏り
今まで生物多様性の研究対象は、開始した人々の興味分野である陸上の動植物が対象とされてきたことが多く、批判を受けてきました。1998年にはR. France氏とC. Rigg氏の研究発表”Examination of the ‘founder effect’ in biodiversity research: patterns and imbalances in the published literature”, Diversity and Distributions, 4, pp. 77-86では、生物多様性の文献を総括し、海洋の生態系の研究論文の不足を見出し、海洋の生物多様性研究を「手に負えない大問題」と呼んでいます。海洋についても、サンゴ礁などの研究は多いものの、深海の分野の研究不足が指摘されています。今後は、海洋環境の保全のため、世界的な研究がより多くなされることが求められています。
■認知度の低さ
「生物多様性」という言葉への認知度は、現在、とても低いです。TNS Political & Social at the request of the European Commission, Directorate-General for Environment が実施した2013年の調査発表によるとEUではBiodiversityという言葉を「聞いたことがあり、意味も分かる」という人が44%いる一方で「聞いたことがあるけれど意味を知らない」という人が33%、「聞いたこともない、知らない」という人が26%いました。日本での認知度はさらに低く、内閣府の2014年の世論調査で「生物多様性」の言葉の意味を知っているか聞いたところ「言葉の意味を知っている」と答えた人の割合が16.7%、「意味は知らないが,言葉は聞いたことがある」と答えた者の割合が29.7%、「聞いたこともない」と答えた人の割合が52.4%となっている。この数値は2012年の調査より知っている人の数が減り、特に聞いたこともない人の割合は41.4%から10%以上増えています。
世界でも、日本でも、今後、国際機関、政府、教育、市民、メディアなどが協力しながら「生物多様性」の認知度を上げていくことが大きな課題です。
参考文献、参考URL
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