気候変動に関する企業情報開示ガイドラインを発行している非営利団体CDPは3月21日、自動車業界に関する報告書を発表した。CDPは機関投資家向けに業界ごとの報告書を作成、発行しており、今回のものは自動車業界に焦点を当てたもの。機関投資家コミュニティからも世界最高の気候変動リスク報告だと評価が高い。報告は、企業から収集した情報をもとに、企業に重大な(マテリアルな)財務インパクトを与えるデータを分析し、投資家目線で業界の概観がまとめられている。報告書の中では、「Super-League Table」と呼ばれる企業ランキングも付されており、今年は日産自動車が世界首位となった。
「Super-League Table」は、必ずしも投資家目線でのランキングではないが、業界における企業の環境パフォーマンス度合いを表したものだ。対象市場地域は、ヨーロッパ、アメリカ、中国の3地域(世界市場シェア合計75%)に限定されているが、世界中の自動車メーカーが対象企業となる。評価尺度は、
(1)車両総排気量(ウエイト50%)、(2)電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の推進度(同25%)、(3)製造工程排気量(同20%)、(4)CDP気候変動パフォーマンスバンド(同5%)。トップ10社は順に、日産自動車、トヨタ自動車、ルノー、マツダ、ダイムラー、フォルクスワーゲン、本田技術工業、BMW、PSAプジョー・シトロエン、フォード。日本勢が上位を占め、日本の自動車メーカーの環境パフォーマンスの高さを魅せつけた。1位の日産自動車は、ウエイトが最も大きい車両総排気量ではトヨタ自動車に及ばなかったが、製造工程排気量でトヨタ自動車を大きく引き離した。トヨタ自動車に関しては、サプライヤー企業の製造工程排気量の情報開示がなされていないことが、評価を下げた要因となった。一方、スズキはCDPのサーベイ調査に未回答のためランキングがつかなかった。韓国勢では現代自動車が13位、起亜自動車はサーベイ未回答。中国勢は今回の調査対象から外された。排ガス不正問題に揺れたフォルクスワーゲンは、車両総排気量の評価が最低ランクとなり、ランキングも昨年の6位から今年は11位へと大きく後退した。
また報告書は、排ガス不正リスクがフォルクスワーゲンだけの話ではないことも伝えた。CDPの独自分析によると、米ビッグスリーであるフォード、GMの2社は米国とEUの双方で罰則を受ける可能性が極めて高く、またFCA(旧クライスラー)も同様のリスクがあるという。その他、BMW、ダイムラー、現代自動車、本田技術工業も米国またはEUで罰則を受ける可能性があるという。業界全体の罰則リスクは米国とEUの合計で48億米ドル(約5,200億円)、そのうちGMだけで18億米ドル(EBITの114%)、フォードだけで12億米ドル(EBITの27%)と見積もった。
その他、業界動向としては、フォルクスワーゲン事件や気候変動枠組み条約パリ協定などを背景に今後さらに自動車環境規制が強まる見込みであり、中国では特に環境規制が世界最高峰級に厳格化され電気自動車や燃料電池車の市場が急拡大しそうである、などとまとめた。業界全体の温室効果ガス排出量の割合としては、車両総排気量が79%、サプライヤー製造工程排気量が14%、自社製造工程排気量が3%、その他4%と算出した。
パリ協定で地球温暖化をマイナス2℃に抑えることを掲げたが、CDPの計算によると、自動車業界の現在の取組状況ではその目標は達成できないという。気候変動に関し、昨今は電力の分野が注目されているが、今後は同様に輸送機器の世界にも熱い視線が注がれることとなる。
【参照ページ】 Climate factors fuel both gloom and boom for car makers
【報告書ページ】Emission impossible
【報告書ページ】No room for passengers
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