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【戦略】コーポレートガバナンス・コードへの対応〜社外取締役の役割とその重要性とは?〜

【戦略】コーポレートガバナンス・コードへの対応〜社外取締役の役割とその重要性とは?〜
 中長期の企業価値向上を目指し、株主を含むステークホルダーとの対話や取締役会の責務を規定した「日本版コーポレートガバナンス・コード」が6月1日に施行されました。コーポレートガバナンス・コードは5つの基本原則、その詳細を示した原則、そして38の補充原則により構成されています。また、それぞれについて“Comply or Explain”(原則を実施するか、実施しない 場合にはその理由を説明するか)が求められ、上場企業各社はその対応に迫られることとなりました。

 コーポレートガバナンスに関する報告書は、6月1日以後最初に開催する定時株主総会の日から6か月を経過する日までに東京証券取引所に提出することとなっており、既に提出を完了している企業も少なくありません。しかしながら、内容が取締役会の責務や構成などを含んでおり、企業にとって「重みのある」ものとなっていることから、「とりあえずはComply」という対応をしている企業も少なくないと言われてもいます。コーポレートガバナンス・コードが設立した背景には、近年増加する海外株主比率に伴い、日本企業のガバナンスを海外基準に照らしあわせた上でも納得感の高いものにしていきたいという当局の思いも込められています。そこで今回は、コーポレートガバナンス・コードの実施に向けた課題を明確にし、どのように対応していくべきかを説明していきます。

ガバナンスに関する現状と課題

コーポレートガバナンス・コードが掲げる基本原則は5つあります。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会の責務
  5. 株主との対話

 この中で特に注目が集まっているものが「4.取締役会の責務」です。とりわけ、4-8で独立社外取締役2名以上の選任、4-8①で、独立社外取締役のみの定期会合の開催等による客観性確保、4-8②筆頭独立社外取締役の決定等による監査役会との連携、4-9で、独立社外取締役の独立性判断基準の開示などには、独立社外取締役の位置づけを明確にすることを求めています。また、「3.適切な情報開示と透明性の確保」においても、3-1で、取締役や経営陣幹部の指名と報酬に関し方針と手続の開示、3-2①で監査役会による外部会計監査人評価基準の策定を要求しています。いずれも、代表取締役や取締役会が任意に行ってきた役員候補の選定や報酬決定において、基準を明確にすることやさらに開示することを求める内容であり、コーポレートガバナンスの客観性と透明性を高めることが意図されていると言えます。しかしながら、これらの内容は企業にとって簡単に整備することはできない問題でもあり、現時点で東京証券取引所への報告を済ませている企業においても、上記条項をComplyしなかった企業数は少なくありません。

 その背景には、近年の会社法の進化に伴い、取締役会の役割というものがよりわかりづらくなってきているという事情も絡んでいます。現在、上場会社に課せられているガバナンス形態には、「監査役会設置会社」「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」の3種類があり、それぞれにおける取締役会の位置づけには当然違いが出てきます。

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(出所)ニューラル作成

監査・監督

 まず、一番歴史の古い「監査役会設置会社」では、社外監査役が過半数を占める監査役会が取締役会および執行者である代表取締役や業務執行取締役を監査・監督する役割を有しています。それに対し、「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」では、取締役会の内部に監査委員会を置きつつ、その監査委員会の客観性と独立性を担保するために、委員会委員の過半数は社外取締役とすることが定められています。

指名・報酬

 取締役や監査役の指名や報酬については、「監査役会設置会社」では、取締役会が一手に担います。監査役会は取締役会での議決権はありませんので、指名や報酬には関与しません。実情としては、取締役会の議長を兼任することの多い代表取締役社長が指名や報酬を掌握していることも多いと言われています。「監査等委員会設置会社」も同様に取締役会が指名と報酬を担いますが、監査委員会委員である社外取締役は取締役会での議決権があり、客観性と独立性が多少担保されている点に違いがあります。一方、「指名委員会等設置会社」では、社外取締役が過半数を占める指名委員会と報酬委員会が役割を担い、客観性と独立性を十分に担保する制度設計となっています。

執行と監督の分離

 コーポレートガバナンスのあり方については、常に「執行と監督の分離」というテーマが重要視されてきました。監査役制度が定着してきた日本では、取締役会が業務執行機関、監査役会が監督機関という意識が強く、2008年に経済産業書の企業統治研究会がまとめた報告書でも「日本の取締役会は執行機関だという認識が非常に強い」としています。監査役会を設けない、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社においても状況はさほど変わりません。監査等委員会設置会社では監督機関である取締役会のメンバーと業務執行者である業務執行取締役が同一であることが多く、また指名委員会等設置会社では、監督機関である取締役会メンバーと業務執行者である執行役の兼任が容認されているためです。

コーポレートガバナンス・コードにおける取締役会の責務

 では、今回コーポレートガバナンス・コードで定められている取締役会の責務は、従来の会社法とどのように異なるのでしょうか。違いのポイントは、コーポレートガバナンス・コードの序文に表れています。

「本コード(原案)では、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている。」

 近年の会社法改正では、取締役会には不祥事の防止やリスク回避などの監督機能の強化を目的とするものが多かったのに対し、中長期価値の向上に対する責任というものが新たに強調されています。

 そして、基本原則4は取締役会の責務について、

  1. 企業戦略等の大きな方向性を示すこと(中長期戦略策定機能)
  2. 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと(経営環境整備機能)
  3. 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと(監督機能)

を挙げ、日常的な業務執行でも監督でもない、新たな機能を提唱しています。また、この3つの責務は、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のいずれでも適用されるとしています。

 また、執行と監督の分離については、原則4-6は、「上場会社は、取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保すべく、業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべきである」と掲げおり、執行と監督の分離をさらに一層進めるよう求めています。

海外の視点

 コーポレートガバナンス・コードが、取締役会の位置づけを大きく再定義しようとしている背景には、海外での新たなトレンドがあります。PwC社が2014年に米国で実施した調査「PwC Investor Survey on Governance Identifies Areas where Investors Want Boards to Improve」では、多くの投資家がガバナンスに関して改善を期待する事項として「取締役会における専門的知見を有し、多様で独立性のある取締役」を挙げています。同様に、日本CFA協会が今年7月に開催した「ジャパン・インベストメント・カンファレンス2015」でも、ジェイ・ユーラス・アイアール社より、「投資家がガバナンスを評価する際に最も重視しているのは『取締役会とその構成』である」との指摘がありました。とりわけ投資家にとって、取締役会の多様性は価値があり、またダイバーシティの社内浸透のために取締役の担う責務が大きいと考えていることがその背景にあるといいます。

 EUでも2014年4月に会社法が改正され、従業員500名以上のEU域内企業(主に上場企業や金融機関)は、年齢、性別、学歴、職歴など、取締役会構成員の多様性に関する方針の開示もしくは開示しない理由の説明が義務づけられました。

 欧米で取締役会の多様性に関心が集まっている背景には、取締役会から「バイアス」と「しがらみ」を排除し、より正しい判断ができるようにするという意図があります。バイアスとは、人ひとりひとりが持つ思考の偏りのことを指し、人はバイアスをゼロにすることはできないというのが根本の考え方にあります。取締役会の多様性を確保することで、組織全体でバイアスをなくしていこうというのがその発想です。一方、しがらみとは、人間関係のパワーバランスから来る心理を指します。企業や上位者と利害関係のある人は、判断の客観性が鈍るという考えから、独立した社外取締役の起用を求めています。これが最近の欧米の取締役会の理想の姿と位置づけられているのです。

 また、欧米では取締役会の責務に関して、日本での議論の中心であった「監督機能」だけでなく、「中長期戦略策定機能」や取締役会の選定・報酬を含む「経営環境整備機能」も同時に重視しており、これらにも「しがらみ」や「バイアス」を廃した取締役会が果たす役割が大きいと捉えてきたということも重要な視点です。実際、マッキンゼー社が公表したレポート「Is there a payoff from top-team diversity?」によると、取締役会の多様性を女性と外国人で計り、上位25%であった企業は下位25%の企業と比較してROEが平均53%、EBITも平均13%高かったことが観測されています。このようにダイバーシティが企業のパフォーマンス向上に貢献することが、欧米の投資家の間での共通認識となりつつあります。

日本における取締役会の多様性と社外取締役の在り方

 海外でコーポレートガバナンスに関する新たな共通認識が生まれたことが、今回のコーポレートガバナンス・コード制定を大きく後押ししました。独立社外取締役を2名以上選任することを要求されたことについては、監査役会設置会社の中には、社外監査役をすでに選任している上にさらに社外取締役の2名以上の選任を要求されたことに大きな負担感を感じているところもあるようです。しかし、そのような項目が制定された理由には、監督機能だけでなく、中長期的戦略策定機能や経営環境整備機能も取締役会の責務として挙げられ、それに関与する独立社外取締役が必要であるとの考え方があります。

 それでは、日本において、中長期的戦略策定機能や経営環境整備機能を果たすための多様な取締役会とはどのようなものになるのでしょうか。世界最大手のエグゼクティブサーチ会社であるエゴンゼンダー社の2014年の調査は、取締役に外国人がいる割合は世界平均で17.1%、ヨーロッパでは32.3%、日本においては3.3%と報じています。社会的同一性の高い日本においては、幾分仕方がないとも思えますが、今後市場の舞台を海外へと移していく企業には、外国人取締役や外国人社外取締役の存在はますます重要となっていきます。また、同調査によると、取締役に女性がいる割合に関しても世界平均が68%、ヨーロッパでは96%なのに対し、日本では36%に留まっています。これは日本企業が「性別に関係なく適切な人材配置を実施している」とは言うには厳しい数値だと言えるでしょう。

 中長期的戦略策定や経営環境整備、そして従来から着目されてきた監督責任のために、取締役会の構成においてどのような多様性を重視するかは業界や企業によって異なります。たとえば、新EU会社法でも、年齢、性別、学歴、職歴等の多様性のどれを重視するかは企業に委ねられています。だからこそ、対外的に取締役や独立社外取締役の選任要件や理由をしっかり説明できるかどうかがますます問われていきます。コーポレートガバナンス・コード元年である今年は、取締役会構成の再定義・再検討までにかけられる時間はあまり多くはありませんでした。来年度の株主総会に向けて新たな一歩が期待されています。

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長 夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所研究員 菊池尚人

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