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【環境】COP21パリ会議の論点 〜気候変動枠組み条約の経緯と現状〜

climate change
 今年の12月にパリで開催される予定の第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)。先進国だけでなく、これまで開発途上国とされてきた国々にも温室効果ガス排出量削減を求めるため、京都議定書に取って代わる新たな枠組みとなると、世界中の注目を集めています。この会議の結果次第で世界が将来的にどの程度気候変動を防ぐことができ、また既存の気候変動の影響を軽減できるかが決まるとまで言われています。

 1994年に気候変動枠組み条約が発効されて以降、毎年締約国会議(COP)が開催されており、今年で21回目となる気候変動枠組み条約締約国会議。これまでどのようなことが決められてきたのか、そして今回は何がテーマ・論点となるのかご存知でしょうか。今回は気候変動枠組み条約締約国会議のこれまでの変遷、そしてCOP21の位置づけとは何かをご紹介します。
※COP21の論点のみご覧になりたい方はこちらからジャンプできます。

「気候変動枠組み条約」とは?

 まずはそもそも気候変動枠組み条約とは何かについてご説明します。155カ国の署名の下に採択され、1994年に発効となった気候変動枠組み条約は、「地球温暖化防止に向けて大気中の温室効果ガスの濃度を安定させる」ことを目的としており、また2000年までに温室効果ガス排出量を1990年の水準に戻すことを目標(努力目標)として掲げました。

 同条約の締約国は

  • 附属書I国(先進国および経済移行国)
  • 附属書II国(先進国)
  • 開発途上国

に分類され、先進国たる日本は附属書I国および附属書II国に該当しています。この附属書締約国に対しては以下の3つの義務が課せられました。

  1. 温暖化防止のための政策措置
  2. 排出量等に関する報告
  3. 開発途上国への資金供与および技術移転

 また同条約においては飽くまで「2000年までの目標」を掲げるに留め、2000年以降の目標については翌年以降の通常会合に託されました。気候変動枠組み条約の条文において「締約国会議の通常会合は、締約国会議が別段の決定を行わない限り、毎年開催する」と明言されており、この通常会合が締約国会議(COP)なのです。

気候変動枠組み条約締約国会議(COP)の変遷および各会合の論点

 それでは実際に各会合においてどのようなことが話し合われてきたのかを説明していきます。

COP1 (ベルリン会議) -1995年-

 気候変動枠組み条約締約の翌年に開催された第1回締約国会議では、各国が気候変動枠組条約だけでは気候変動問題の解決には不十分であるという認識で一致し、2000年以降の排出量について目標を立てていくことが合意されました。

 そして以下の2点

  • 第3回締約国会議(COP3)までに先進国の目標や具体的な取り組みについて取りまとめること
  • 開発途上国には新たな約束を課さないが条約上の既存の約束を再確認し、その履行を促すことが「ベルリン・マンデート」として決定されました。

COP2 (ジュネーブ会議) -1996年-

 同会議では、排出量目標の各国一律化や、目標達成に必要な措置などについて話し合われたものの目立った合意には至らず、各国の取組み状況やベルリン・マンデートの進捗確認に留まりました。

COP3 (京都会議) -1997年-

 この第3回会議こそが言わずとしれた「京都議定書」が採択された会議です。京都議定書では先進国に対して具体的な温室効果ガス削減目標が定められると共に、開発途上国に対しても活動形態が定められました。また、2008〜2012年を第一約束期間とし、先進国全体の温室効果ガスの合計排出量を1990年比で5%削減することを目標としました。これ以降2004年のCOP10まで京都議定書の詳細に関する議論が続きます。

COP4 (ブエノスアイレス) -1998年-

 続く第4回会議では数値目標を達成するための手法として「京都メカニズム」などの運用ルールがCOP6までの決定事項とされ、「ブエノスアイレス行動計画」として採択されました。

COP5 (ボン会議) -1999年-

 前回採択されたブエノスアイレス行動計画が翌年2000年に向けたものであるため、同計画に基づき京都メカニズムや遵守問題の詳細について話し合われました。

COP6 (ハーグ会議) -2000年-

 COP4にて採択されCOP5でも話し合われきたブエノスアイレス行動計画に則り、本会議での京都メカニズム等に関する運用ルールの決定が目指されましたが、アメリカ・日本などのグループと英国・途上国などの意見対立により会議は中断となってしまいました。

COP6.5 (ボン会議) -2001年7月-

 COP6.5以前の同年3月に、自国経済への影響が大きいとしてアメリカが京都議定書からの離脱を表明したため、最大排出国であるアメリカと中国を欠いた形になってしまいます。この後7月に開催されたCOP6.5においてEUなどの歩み寄りによって、アメリカや中国を除きながらも京都メカニズムや森林吸収源、途上国問題について合意(ボン合意)に至ります。

COP7 (マラケシュ会議) -2001年10月-

 COP6の三ヶ月後にモロッコのマラケシュにて開かれたCOP7では、マラケシュ合意
が為され、京都メカニズムなど京都議定書の詳細な運用ルールが採択されます。

COP8 (デリー会議) -2002年-

 京都議定書に向けたさらなる働きかけが為されました。

COP9 (ミラノ会議) -2003年-

 CDMなど京都議定書の積み残しルールについての決定が為されました。

COP10 (ブエノスアイレス会議) -2004年12月-

 COP10より1ヶ月前2004年11月にロシアが京都議定書に批准し、京都議定書の発効条件であった

  • 55か国以上の締結
  • 締結した附属書I国の合計の二酸化炭素の1990年の排出量が、全附属書I国の合計の排出量の55%以上

の両方をついに満たし、翌年2月より京都メカニズムが実質的に動き出すことが決定しました。そんな歓迎ムードの中で開催されたCOP10では、途上国の適応策やポスト京都(京都議定書第一約束期間以降)など次の段階に関する話し合いが持たれました。

COP11&CMP1 (モントリオール会議) -2005年-

 前述の通り同年2月より京都議定書が発効したことを受けて、COP(気候変動枠組条約締約国会議)と共にCMP(京都議定書締約国会議)が開催されました。COP11&CMP1では、ポスト京都枠組が第一約束期間後(2013年以降)も切れ目なく続くよう、今後期限を設けずに検討を続けることを合意しました。また気候変動枠組み条約には批准しつつも京都議定書からは離脱しているアメリカとの対話も開始されました。

COP12&CMP2 (ナイロビ会議) -2006年-

 COP12ではポスト京都に関する公式交渉を2007年から始めることを決定しました。さらにCMP2では、いかなる国の義務にも繋がらないことを明示した上で2008年に京都議定書の見直しを実施することを決定しました。

COP13&CMP3 (バリ会議) -2007年-

 COP13およびCMP3では「バリ・アクションプラン」としてアメリカ、中国、インドなどを含む全ての主要排出国が2013年以降の枠組みの構築作業に参加することが合意されました。また、ポスト京都の枠組みについては2009年の合意に向けて議論されました。

COP14&CMP4 (ポズナニ会議) -2008年-

 COP13に引き続き、2009年末の合意に向けた議論が進められました。

COP15&CMP5 (コペンハーゲン会議) -2009年-

 第一約束期間に批准していなかったアメリカ、中国、インド含む主要国も2013年以降のポスト京都に参加するとし、各国が自主的に目標を設定・登録して、その達成状況を国際的に相互検証する枠組みの合意に向けて議論が進められましたが、全ての国のコンセンサスを得ることができず、この「コペンハーゲン合意」は留意という形なりました。

COP16&CMP6 (カンクン会議) -2010年-

 COP16では世界の平均気温の上昇幅を産業革命前比で2℃未満に抑えるという長期目標を置く「カンクン合意」がアメリカや中国を含む形で正式合意されました。これにより各国が掲げる自主目標がそれぞれの2020年までの行動を規定するようになります。下の図からもアメリカと中国の温室効果ガス排出量が世界の排出総量に占める割合が非常に大きい(2009年時点)ことがわかり、これら大国を含めた合意は着実な前進と言えるでしょう。

world emissions
(the guardian World carbon dioxide emissions data by country: China speeds ahead of the restより抜粋)
 ところが、当初目標とされていたポスト京都の新たな枠組みについての合意はなされず、飽くまでCOP17への繋ぎとしての役割という見方もあります。

COP17&CMP7 (ダーバン会議) -2011年-

 COP17では「ダーバン合意」として、気候変動に対し2020年以降全ての国に適用される法的枠組みの構築に向けた道筋をつけ、その枠組みが構築される2020年までの取り組みの基礎となるカンクン合意を実施するための仕組みの整備が為されました。

 また、京都議定書の第二約束期間の設定方針などについても合意されましたが、日本、カナダ、ロシアは第二約束期間に参加しないことを表明しました。これにより、日本は第一約束期間である2012年までは京都議定書に則って行動するものの、2013年以降はカンクン合意で掲げた自主目標を基に行動することとなります。

COP18&CMP8 (ドーハ会議) -2012年-

 COP18を以って、京都議定書第一約束期間が終了したため、気候変動枠組み条約について成果を上げるためにポスト京都の枠組みに関する議論や検討をしてきた「長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)」もその役割を終えました。

 また、クリーン開発メカニズム(CDM)については、京都議定書の第二約束期間に参加しない国であっても2013年以降のCERを原始取得することが可能となりましたが、共同実施や国際排出量取引によるクレジットの国際的な獲得・ 移転は、第二約束期間参加国のみに認められることとなりました。

COP19&CMP9 (ワルシャワ会議) -2013年-

 COP19では、「全ての締約国が参加する公平で実効性のある新たな法的枠組」を2015年末のCOP21で採択し、2020年に発効させること、そしてそのために可能であれば2015年3月末までにそれぞれの国が掲げた自主削減目標や計画を提示することが「ワルシャワ合意」として決定しました。

 ところが現状これら各国が掲げる自主削減目標の総和は、COP16のカンクン合意において示された「世界の平均気温の上昇幅を産業革命前比で2℃未満に抑える」のに充分とは言えません。そこで削減目標の基準年や達成の時期、算出や評価の方法など詳細は、COP20までの決定事項となりました。

 その他、開発途上国の目標達成のための資金支援についても定められ、先進国は2014年早期に資金を支援することが取り決められました。

COP20&CMP10 (リマ会議) -2014年-

 COP20は2020年以降の新たな国際枠組みを、2015年のCOP21で採択するため、基本事項を決めることを目的としていましたが、各国の目標提出時期や温暖化の影響を軽減する対策などは明らかにされず、曖昧な表現となりました。

 また、先進国が隔年報告書に記載する支援についての情報を増やすことや、緑の気候基金(GCF) への初期動員(100億USドル)を歓迎する等が採択されました。

気候変動枠組条約締約国会議におけるパリ会議(COP21)の立ち位置と論点

 ここまで見てきた気候変動枠組条約とその締約国会議で話し合われた削減目標を基準年別にまとめると次のようになります。

  • 気候変動枠組み条約      :2000年までの目標
  • COP1〜2           :2000年以降の目標
  • COP3〜10 (京都議定書)    :2008〜2012年の目標
  • COP11〜16 (ポスト京都[1]) :2013〜2020年の目標
  • COP17〜21 (ポスト京都[2])  :2020年以降の目標

 今年12月にパリで開催されるCOP21は当然ポスト京都(2020年以降)における削減目標の達成に向けた話し合いになるわけですが、既に先進各国が離脱した京都議定書はほとんど存在感を失っており、今回主題となるのは先のCOP17において「COP21で採択する」と決めた「全ての締約国が参加する公平で実効性のある新たな法的枠組」についてです。

 COP21では各国から提出された自主削減目標に基づき2020年以降の枠組みが確立します。つまり、各国がどの程度前衛的な削減目標を掲げるか次第で世界の将来的な気候変動防止・影響軽減の度合いが決定するというわけです。

 そんな今回のパリ会議で主な論点として挙げられるのは次の6つです。

  • これまで「先進国」と「途上国」といったグルーピングはどうあるべきか
  • 自主目標であってもいかに実効性を担保するか
  • 温暖化の影響を軽減する対策を目標に含めるかどうか
  • 資金支援は誰が誰におこなうか、また資金支援目標額どのように扱われるべきか
  • 「透明性」(報告、評価)の仕組み
  • 排出量削減目標の法的形式

 継続成長を保ちたい開発途上国の論理と自国経済のみへの負担を避けたい先進国の論理がぶつかり、大きなうねりを生んでいます。12月のCOP21に向けて各国がどのような削減目標を打ちたて会議に臨むのかに注目が集まります。

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菊池尚人

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所研究員

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