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【エネルギー】再生可能エネルギー政策は失敗したのか? 会計検査院報告を読み解く

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会計検査院が過去5年間の再エネ公共事業の成果を監査

10月8日に、会計検査院が「再生可能エネルギーに関する事業の実施状況等について」という報告書を発表しました。これを受け、読売新聞が「故障・苦情…国補助金の再生エネ41設備が休止」というニュース記事をリリース。再生可能エネルギーに懐疑的な人々からは、ツイッターやブロクなどで「言わんこっちゃない。」「もうやめようよ。税金をドブに捨てるようなもの。」などの声が上がっています。一体何が、書かれていたのか。今回は、会計検査院の報告書の中身をご紹介したいと思います。

ちなみに、会計検査院とは、政府の税金の使い方に関する監査を行う機関。企業に例えるなら監査役による会計監査と似ています。会計検査院の監査は税務調査のように選択式で実施されており、今回は最近注目されている再生可能エネルギー案件も対象となりました。但し、今回の報告において、東日本大震災で被害が大きかった岩手県、宮城県、福島県は対象外となっています。

読売新聞の記事で設備の休止がクローズアップされたことで、政府による再生可能エネルギー事業そのものが失敗だと非難する声が上がっていますが、本当にそうなのでしょうか。一般的にプロジェクトの成否を判断するには判断軸が必要です。政府による事業にも同様に成否を測る尺度が必要。では、再生可能エネルギー事業における成否の尺度とは何でしょうか。本来的には、政策目標である再生可能エネルギー比率の向上にどれだけ貢献しているか、さらにその政策目標をいかに低コストで実現できたのかが尺度と言えそうです。しかしながら、今回の会計検査院の報告にはこれらのデータは示されていません。替わりに用いられている主要なデータは、?各補助金の金額、?補助金によって建設された再エネ設備の数、計画エネルギー量と実績エネルギー量です。これらからは、補助金の投資効率はわからないものの、補助金によって何が生み出されたのかがわかるようになっています。

国庫投入と固定価格買取制度

国が行っている再生可能エネルギー推進事業には大きく分けて2つあります。1つ目は、補助金を投じて再生可能エネルギー設備そのものを直接的に増やそうというもの。もう一つは、電力会社に再生可能エネルギーによる電力を強制的に固定価格で買い取らせることで、市場原理を用いて再生可能エネルギー設備を増やそうというもの。巷で話題の固定価格買取制度は当然後者です。ちなみに、読売新聞が報じた41設備云々という話は、前者の補助金事業によるものの話であり、固定価格買取制度によって進んだ民間の大規模再生可能エネルギー施設等は全く関係ないということは先にお伝えしておきます。

2009年度から2013年度までの過去5年間で投入された国庫の額を報告書から計算しました。

再生可能エネルギー事業の実施状況

過去5年間で総額4,763億円が投じられています。また国庫のほとんどは、地方政府による中規模の再生可能エネルギー設備と、住宅用の太陽光発電設備(経済産業省が太陽光発電協会を通じて補助金を給付している事業)に投じられています。また、この国庫によって建設された又は建設が補助された設備は合計約110万。住宅用の太陽光発電普及のための助成を除いた国と地方政府双方によるものだけでも7,836設備あります。

再生可能エネルギー設備の容量

次に容量の内訳を見ていきましょう。発電設備の合計は629万kW、発熱容量は115MJ/hです。629万kWと言われてもピンとこないかもしれません。ちなみに、福島第一原子力発電所の1号機から6号機までの合計が約470万kWですので、福島第一原子力発電所の1.3個分に相当するということです。住宅用を除いた国・地方政府の合計は154万kWで、関西電力の美浜原子力発電所の容量が167万kWですので、これより若干下回る程度です。エネルギー関連にお詳しい方であれば、発電設備容量がそのまま実際の推定発電可能量を表すことではないということはご存知かと思います。例えば、常時容量いっぱい稼働可能な原子力発電所に比べ、風がないと風力発電は発電できませんし、雨天では太陽光発電は発電できません。そこで続いて、発電量の計画値と実績値を見ていきましょう。

再生可能エネルギー発電量
(※データは2013年度の数値)

上記は地方政府が国庫を活用して導入した6,628設備のうち、年間計画発電量が設定され、かつ発電実績が把握できる4,407設備の2013年度のデータです。まず、注目すべきは、再生可能発電全体において計画値に対して発電実績が96.4%と悪くない数値であるという点です。何かと槍玉にあげられる太陽光発電においては計画値に対して112.6%とかなり好調です。もうひとつの注目すべき点は発電量が絶対量としてどのぐらい高いのかという点です。地方政府の導入設備の年間発電量は合計約26億kWh。これを6,628設備全体に換算し直すと約41億kWh。震災前の2010年度の福島第一原子力発電所の年間発電量が約330億kWhですので、およそ8分の1の発電量を地方政府が導入した再生可能エネルギー発電で賄っている計算になります(美浜原子力発電所の2010年度年間発電量121億kWhを基点とすると約3分の1です)。この福島第一原子力発電所の1/8という数値のインパクトは捉え方により意見が異なりますが、5年間で地方政府だけで大型原子力発電所の1/8の電力を賄うの発電所を設置したというのは、決して少ない数字ではないと思います。

地方政府の再生可能エネルギー設置場所

さらに、上図で示した地方政府の設備設置場所を見てみると興味深いことがわかります。まず、設備のうち太陽光発電が占める割合が極めて高く(95.5%)、中でも、学校、庁舎、ごみ処理施設、上下水道施設、その他の公共施設という既存の政府関連施設の太陽光発電だけで全体の80%を占めています。新たに用地を確保することなく、既存施設のスペース活用だけで、福島第一原子力発電所の1/8を賄えているということはとても優秀だと言えます。

41設備が休止の意味

さて冒頭が示した41設備が休止の意味を見ていきましょう。会計検査院の報告書では、国・地方政府により設置された7,836設備を対象とした調査で、現在41設備が休止していることを明らかにしています。

活動休止中の再生可能エネルギー設備

ここでの注目点は、?7,836設備のうち活動休止はわずか41設備で、7,795設備は稼働している(稼働率99.5%)、?休止41設備のうち故障原因解明中や修理中のものが21と半数を占める、?再稼働予定のない設備はゼロ、ということです。故障や修理については他の発電設備でも避けられないことであり、地方政府導入の設備は基本的に高い稼働率を誇っていると言えます。会計検査院は報告書の中で、休止中の設備について、中央政府から地方政府に対して再稼働か廃止かを迫るよう求めているのも事実ですが、それは一般的な話であり、何も会計検査院が再生可能エネルギー設備に対して烙印を押しているわけではありません。

また、報告書の中では、すでに7設備が廃止されたことも明らかにしていますが、そのうち、やむを得ない故障が2件、事故が2件、建物売却が1件、事業中止が1件、経営破綻が1件であり、事業者の過失や都合による4件については国庫補助金が返金されています。(事業中止の1件については、文部科学省の補助金事業であり、こちらについては返金規定が未整備で返金されないようです。)

固定価格買取制度は国庫とは無関係

ここまで、政府の補助金による直接的な再生可能エネルギーの拡大事業をみてきましたが、では固定価格買取制度についてはどうでしょうか。まず、繰り返しになりますが、固定価格買取制度においては、国庫の負担はありません。電力会社が発電事業者から電力を固定価格で買い取る財源については、電力消費者から賦課金という形で徴集されているからです。

固定価格買取制度については、政府から対象設備として認定を受けた件数(認定件数)に対して、実際に運転を開始した件数(導入件数)が著しく低いということが、以前からメディアなどでも指摘されてきました。

再エネ発電設備の認定・導入件数の推移

この状況に対して、会計検査院報告書では、

経済産業省は、特段の理由なく認定設備の運転を開始しない事業者がいるとして、24年度中に認定を受けた運転開始前の400kW以上の太陽光発電設備計4,699件(これに係る認定出力1331万kW)について、認定基準等を踏まえて当該設備を設置する場所及び当該設備の仕様がそれぞれ土地の取得若しくは賃貸借又は発注により決定しているかなどについて再エネ法の報告規定に基づき調査し、26年2月にその結果を公表している(図表2-8参照)。この調査結果によれば、設置場所又は仕様のいずれかが未決定のもの、いずれも未決定のもの及び調査に対し未回答等のものがあり、その認定件数は計1,643件(4,699件の34.9%)、これらに係る認定出力は737万kW(1331万kWの55.3%)となっていた。そして、経済産業省によれば、これら1,643件の再エネ発電設備について、順次、行政手続法(平成5年法律第88号)に基づく聴聞を開始し、聴聞においても当該設備の設置場所及び仕様が未決定と認められた場合には、当該設備の認定を取り消すこととしている。

と経済産業省が対策に乗り出すことを明らかにしています。

また、国庫が投入されていないと言えども、国民から賦課金という形で強制的に徴集をしている政策でもあり、無駄のないお金の流れについて注意するよう会計検査院も報告書の中で呼びかけています。

再生可能エネルギーの国庫補助金事業は失敗とは言えない

再生可能エネルギー事業に5年間で投下された4,763億円。この税金投入は意味があった、事業が成功したというためには、税金投入の資金効率性や再生可能エネルギー比率の向上、ひいては国民のエネルギー予算全体の削減への寄与、CO2排出量の削減への寄与など、最終的なアウトカムに関するデータ収集がまだまだ必要です。しかしながら、今回の会計検査院の報告を見る限りにおいては、再生可能エネルギーに対する国庫補助金は無駄遣いであったとか、再生可能エネルギーそのものが失敗しているとは言えないのではないかと思います。特に税金を投下した事業では、主に既存施設のスペースを活用するだけで、大規模原子力発電所の数分の一の規模の発電をすでに実現していますし、さらに住宅用の太陽光発電も急速に増加してきているからです。41設備の休止というのも全体のわずか0.5%であり、全てが再稼働を予定していることを考えると、地方政府の補助金申請過程で審査がある程度はしっかりと機能していた言うことができます。

日本にとってしばらく重要な課題であり続けるエネルギー問題。重要であるからこそ、方向性についての見極めが非常に大切です。すでに取り組まれている予算投下プロジェクトは、謂わば判断の上での試金石。今回は会計検査院の報告書を細かく紹介してきましたが、試金石の判断においては感情的な判断や決め付けは結果の意味を取り違える危険性が大いにあります。大事な問題だからこそ、しっかりとした分析と議論が必要なのではないかと考えています。

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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