バイオエネルギーとは? ー熱・電気・燃料ー
2014年7月9日、日経新聞が「米ボーイングや東京大学、日本航空、全日本空輸などは航空機バイオ燃料の実用化に向け、新たな組織を立ち上げた。原料となる家庭ごみや藻類、非食用植物の調達ルートや精製プラント、燃料のサプライチェーン(供給網)について原料ごとに事業モデルを策定する。低コストで量産できる最適な原料と設備を探り、2020年の実用化を目指す。」と報じました。また、2012年にはミドリムシからジェット機燃料を製造する技術開発に取り組むユーグレナ社が東証マザーズに上場したことも話題となりました。今、バイオ燃料の分野が、国内でも注目されています。
バイオ燃料。何やら環境に優しそうな響きのある言葉です。バイオの分野には将来性が大きく期待されており、似た言葉に、バイオマス燃料、バイオマス発電というものもあります。皆さんはこれらの違いをご存知でしょうか?バイオ燃料というものを理解するためには、先にバイオマス、バイオエネルギーという言葉を押さえておく必要があります。
バイオマス
それではまずバイオマスから理解していきましょう。バイオマスとは、専門家の間では、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石燃料を除いたもの」と定義されています。何やら難しい言葉ですが、極めて単純に言ってしまえば、地球上にある植物・動物を合わせた生物のことです。木もバイオマスの一部、米もバイオマスの一部、冒頭のミドリムシもバイオマスの一部です。生物学的には昆虫や動物もバイオマスの一部ですが、エネルギー資源の文脈では倫理的な問題がありバイオマスという名称では呼ばれません。石油、石炭、天然ガスなどの化石資源も、地質時代に堆積した動植物などの死骸などが由来しているという説が有力ですが、再生するのに極めて長期的な時間を要する、もしくは再生が極めて困難である(枯渇性資源と呼ばれます)ため、バイオマスの定義からは化石資源は除外されます。
バイオエネルギー
バイオマスを基にしたエネルギー資源のことをバイオエネルギーと言います。例えば、さとうきびを原料としたガソリン代替燃料もバイオエネルギー、ごみ焼却施設の発熱を用いた発電もバイオエネルギー、落ち葉で焚き火をするのもバイオエネルギーです。このように、バイオエネルギーは、大きく「熱」「電気」「燃料」に分類できます。
(出所)World Business Association “WBA Global Bioenergy Statistics 2014”
世界全体でのバイオエネルギー利用の状況は、圧倒的に多いのが「熱エネルギー(Heat)」です。これはある意味当然とも言えます。人類社会は古代から、バイオマスを燃やすことで発熱をしてきています。今でも経済開発が進んでいない地域を中心に、火をおこして調理をしたり、火をおこして風呂を温めたり、火をおこして陶器を生産したり、火をおこして部屋を暖めたりと、様々なバイオマス由来の熱エネルギーを用いています。
(出所)World Business Association “WBA Global Bioenergy Statistics 2014”
地域ごとのバイオエネルギー割合を見てみても、アジアやアフリカなど未開発の地域が多いところほどバイオエネルギーの熱利用が多いことがわかります。一方で、ヨーロッパやアメリカ地域では、バイオ燃料(Transport)の量がかなり多いことがわかります。焚き火など「熱」としてバイオマスを利用することはイメージできても、バイオマスを「バイオ燃料」として理解するのはそれほど簡単ではありません。では、バイオ燃料とは一体何なのか。続いて、それを見て行きましょう。
バイオ燃料(Biofuel)の種類
バイオマスを用いた燃料のことをバイオ燃料、またはバイオマス燃料と言います。この2つは同意語です。現在、バイオ燃料の実用化に向けた検討が大きく進んでいるのが、バイオエタノール(Bioethanol)、バイオディーゼル(Biodiesel)、バイオジェット燃料(Aviation Biofuel)、バイオガス(Biogas)の4分野です。
バイオエタノール
(出所)環境省中央環境審議会地球環境部会資料
バイオエタノールは、バイオマスを活用してつくるガソリン代替品です。バイオエタノールの原料として使われているのは主に3種類あり、(1)糖質原料(サトウキビ、糖蜜、甜菜)、(2)でんぶん質原料(とうもろこし、麦、もろこし、じゃがいも、さつまいも)、(3)セルロース系原料(稲藁、籾殻、スイッチグラス、廃材木など)です。このうち、世界で実用化に至っているのが(1)と(2)で、(3)のセルロースは現在は研究段階ながら今後の実用化に期待が集まっています。
エタノールと言われてピンとこない方もいるかと思います。エタノールの代表例と言えば理科の実験で登場するアルコールランプの中身。エタノールはアルコールの種類の一つです。すなわち、バイオエタノールの製造工程はお酒を作るのと同じで、酵母を用いて糖分をアルコール発酵させて製造します。もちろん、さとうきびやとうもろこしはそのままではアルコール発酵させるのに効率が良くなく、水やその他の成分を加えて酵母が発酵しやすい性質に変化させたり、成分分解を行って糖質だけを凝縮させたりしています。
(出所)経済産業省「バイオ燃料の導入に向けた課題について」
とりわけセルロース系原料は、前処理としてセルロースを分解して糖分だけを取り出す工程が必要となり、コスト面で割高になる課題を抱えています。
では、バイオエタノールは何に使われているのでしょうか。そのほとんどはガソリンと混ぜられ、自動車用の燃料としてガソリンスタンドで販売されています。こうすることで、原油由来のガソリンの使用量を減少させることに貢献しています。バイオエタノールを含むガソリンは、世界共通でE5、E10のように表現されています。この5や10はバイオエタノールの混合率を表しており、E5はバイオエタノールが5%混合されているガソリンを、E10はバイオエタノールが10%混合されているガソリンのことを意味しています。また、バイオ燃料を直接ガソリンと混合させず、バイオ燃料とイソブテンの混合物をガソリンと混合するETBEも欧州では利用されています。
(出所)環境省
バイオディーゼル
バイオディーゼルは、バイオマス由来のディーゼルエンジン用燃料です。バイオディーゼルの英語Biodiesel Fuelの頭文字をとってBDFと呼ばれることも多いです。バイオディーゼルの原料となるものは、菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、ヘンプ・オイル(大麻油)などの植物油、魚油や豚脂、牛脂などの獣脂及び廃食用油(いわゆる天ぷら油等)など、様々な油脂がバイオディーゼル燃料です。特に利用されているのは、欧州では菜種油、中国ではオウレンボク等、北米及び中南米では大豆油、東南アジアではアブラヤシやココヤシ、ナンヨウアブラギリから得られる油です。また、料理油や工業用油などの廃油を利用するケースもあります。
バイオディーゼルの製造方法は、バイオエタノールのようにアルコール発酵をさせる必要がないためよりシンプルです。原料となる油脂は粘度が高いことが多く、そのままではディーゼル自動車の噴射ポンプや噴射ノズルに成分が付着して不具合が発生することが懸念されるため、化学処理を施して原料油脂からグリセリンを取り除くことで精製されています。バイオディーゼルはバイオエタノールよりも後発で検討されてきましたが、精製方法が容易のため急速に市場が広がっており、事業会社や自治体などでも独自に実用化されています。使用に際しても、バイオディーゼル100%のものもあり、または軽油と一定割合で混合して使用することもあります。軽油との混合割合は、バイオエタノールと同じく、B10、B20などと表現され、B100はバイオディーゼル100%を意味しています。
バイオジェット燃料
バイオエタノールやバイオディーゼルが主に自動車向けのバイオ燃料として発展してきたのに対し、航空機のジェット燃料の代替品としてのバイオ燃料の実証実験も進んでいます。バイオジェット燃料はバイオディーゼルと同様、油成分のものを精製することで得られます。現在原料として可能性が追求されているのが、ナンヨウアブラギリやアマナズナなどの植物、藻類、牛脂です。また、現在ユーグレナ社が取り組んでいるミドリムシがバイオジェット燃料の原料として新たに浮上してきています。
バイオジェット燃料は理想主義的なものに思われるかもしれませんが、実はすでに実用化されています。まだ、大規模な活用とまではいきませんが、2008年以降、世界中の数多くの航空会社がバイオジェット燃料でのテスト飛行に成功しています。さらには、KLM、ルフトハンザ航空、メキシコ航空、コンチネンタル航空、フィンランド航空などがバイオジェット燃料での商用飛行にも成功しています。商用飛行で使われたのは、ナンヨウアブラギリ、藻類、そして使用済み食用油です。軽油との混合割合も25%から50%と少なくない割合のバイオジェット燃料が実用性を帯びてきています。
バイオガス
バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオジェット燃料が液体のバイオ燃料であるのに対し、気体形状のバイオ燃料がバイオガスです。バイオガスは一般的に、生物の排泄物、有機質肥料、生分解性物質、汚泥、汚水、ゴミなどの廃棄物が原料となっています。
(出所)独立行政法人農畜産業振興機構
バイオガスは有機廃棄物をメタン菌などの微生物を用いてメタン発酵して製造されます。バイオガスはすでに幅広い用途で活用されており、車両の燃料源としてバイオ燃料として利用されるものもありますし、ガスを燃焼させた熱を利用した発電用途や、温水プールや、調理ガスなどで熱利用されることもあります。
急速に拡大するバイオ燃料
(出所)World Watch Institute
すでに、世界で商用として活用されているバイオエタノールとバイオディーゼルの生産量は2000年代後半に急増しました。後押ししているのは、各国の政策です。米国では中東からの石油依存を脱却するために、2006年のブッシュ大統領の一般教書で2025年までに、中東産石油の依存度を25%以下にするという目標が示されました。ブラジルでは、2003年以降にバイオ燃料でも走行可能なフレックス車の販売を推進したことでバイオエタノールの需要が大きく拡大しました。
(出所)独立行政法人農畜産業振興機構
バイオ燃料の生産を国別に見ると、原料となるバイオマスを生産している国に偏っているのが現状です。世界のバイオディーゼルとバイオエタノール生産の43%を占める米国は自国で生産しているとうもろこしでバイオエタノールを生産していますし、26%を占めるブラジルはさとうきびを主原料としています。一方で、EU諸国や中国なども着実に生産量を伸ばしてきています。ちなみに日本はバイオディーゼルは一部地方自治体が環境目的で推進する一方、世界で主力のバイオエタノールはE3の実証実験レベルにとどまっています。
バイオ燃料の課題:コストと食糧バランス
バイオ燃料にも解決していくべき課題があります。まずはコスト。バイオエタノールやバイオディーゼル、バイオジェット燃料の普及のためには、既存のガソリン、軽油、ジェット燃料と同等かそれ以下にまでコストを下げていく必要があります。バイオ燃料の生産には従来型のエネルギー源よりも加工プロセスが多く、またバイオ燃料に対応した自動車の開発やガソリンスタンドの設備投資が必要となります。バイオエタノールやバイオディーゼルの活用が進む米国でも、エネルギー産業界や自動車業界からはコスト増に対する悲鳴も上がっています。バイオ燃料の普及のためには、原料となるバイオマスの品種改良や生産効率の増加、加工プロセスでのコスト削減のための技術開発が欠かせません。
また課題の2つ目として大きくのしかかっているのが、食糧とのトレードオフの問題です。2000年代に急増したバイオ燃料は糖質やでんぷん質を主原料としたものが多く、食糧を燃料として使ってきました。一方で、地球上には飢餓に苦しむ人々もおり、食糧をエネルギー源としてではなく、まずは食糧資源として利用すべきだという声も多くあります。そこで、セルロース系や藻類、ミドリムシを原料としたり、廃油や廃棄物を主力にしようという動きも活発化しています。セルロース系のバイオエタノールは上記でみたようにセルロース分解の工程が増えコスト増や転換効率の低下につながるため、さらなる技術開発とコスト削減が重要性を増しています。廃油を主力としたバイオディーゼル、バイオジェット燃料や、廃棄物を主力とするバイオガスは、廃油・廃棄物の回収が必要のため、バイオ燃料としての再利用を前提とした製品の開発やリサイクルを可能とする社会システムの構築が不可欠です。
バイオ燃料は21世紀の燃料として飛躍を迎えると言われる重要な資源です。もちろん、課題もたくさんありますが、それをひとつひとつ克服していくことが持続可能な燃料の実現への大きなプロセスとなります。
文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治
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