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【TED】The business logic of Sustainability ~世界を変える方程式~

今回ご紹介するのは2009年5月に投稿されたTED Talk、 ”The business logic of Sustainability”。スピーカーはInterface社創業者のRay Anderson氏で、TEDのサステナビリティに関する動画の中でも特に心に残るスピーチの一つだ。

Interface社はタイルカーペットで世界No.1シェアを持つ業界のリーディングカンパニーで、製品のデザイン性・革新性だけではなく、サステナビリティ分野の先進企業としても知られている。Anderson氏は1973年に同社を創業し、1994年から本格的にサステナビリティに取り組み始め、今日のInterface社を築き上げた。

このスピーチでは、ある本をきっかけにサステナビリティの重要性に気づき、早くから積極的に取り組み始め、サステナビリティの追求とビジネスの成功の双方を実現した同氏のこれまでのストーリーが紹介されている。また、その過程で同氏が考案した独自のサステナビリティ理論も紹介されており、全てのCSR関係者や企業経営者にとって必聴の内容となっている。

Anderson氏がサステナビリティの重要性に気づいたきっかけは、1994年の夏にPaul Hawken氏の ”The Ecology of Commerce” という本を読んだときだ。Hawken氏は同書の中で、企業および産業界はバイオスフェア(生物圏)衰退の原因となる主たる犯罪者であり、また人類をその窮地から救い出すことができる力を持つ唯一の存在でもあると主張した。

Anderson氏にとってみれば、同書の内容はカーペットタイル産業で大きな成功を収めてきた自身のことを地球の略奪者であると責め立てられ、有罪宣告されたも同然だった。

「もしHawkenの言うことが正しいなら、企業や産業界は、自分たちの力を使って地球をこの窮地から救いださなければならない。それでは、誰がそれを先導するのか。誰かが先頭に立って取り組まない限り、きっと誰もやらないだろう。」

そう考えた同氏は、Interface社とともに自社がその役割を果たすことを決意した。このときから、同氏のサステナビリティへの長い挑戦が始まることになる。

同氏はスピーチの中で、Paul R. Ehrlich氏とAnne H. Ehrlich氏(夫妻)が提唱した環境への負の影響に関する下記の有名な方程式を紹介している。

I = P * A * T

  • I:Environmental Impact(環境への負の影響)
  • P:Population(人口)
  • A:Affluence(豊かさ)
  • T:Technology(技術)

P(population)は「人口」を指し、A(Affluence)は「豊かさ」、そしてT(Technology)はそれを実現するための「技術」を指す。この方程式はあくまで主観的なもので、特に技術については定量化がとても難しい要素であり、あくまで概念的な式ではあるものの、私たちが問題を理解する上ではとても役に立つ方程式だ。

しかし、上記の方程式では、Technologyが発展すればするほど、Impact(環境への悪影響)が増えてしまうことになる。そこで同氏は、Interface社においてEhrlich夫妻の方程式を下記のように書き換えられないかと考えたという。

I = P * A / T2

「Impactを減らすことができるように、Technologyを分母に置くことはできないものか?」同氏はこう考えたのだ。最初の方程式のTechnologyをT1と呼ぶならば、分母に置き換える新しいTechnologyはT2だ。

t1 to t2

同氏は、最初の産業革命の特徴はT1であり、まさに同氏がInterface社で取り組んできたこともT1であったと前置きしたうえで、T1は下記の特徴を持っていると考えた。

  • Extractive(採取する):地球の資源から原材料を取り出す
  • Linear(直線的な):Take 取り出す → Make 作る → Waste 浪費する
  • Wasteful(浪費的な):労働生産性の重視

限りある地球の資源から原材料を取り出し、それをもとに化石燃料の力で製品を大量に生産し、大量に消費する。そしてそのプロセスは直線的で循環することがない。また、「1人が1時間をかけてどれだけ多くのカーペットを作れるか」といったような労働生産性に重きが置かれており、それが結果として浪費につながっている。これが、T1の特徴だ。

同氏は、Technologyを分母に置き換える(T2)ためには、新たな産業革命としてそれぞれの特徴を下記のように移行する必要があると説明している。

  • Extractive(採取する)→ Renewable(再生可能な)
  • Linear(直線的な)→ Cyclical(循環する)
  • Wasteful(浪費性)→ Waste-free(浪費なし)

化石燃料エネルギーを太陽光など再生可能エネルギーに置き換えることでRenewableかつCyclicalなものにし、労働生産性(Labor Productivity)は資源生産性(Resource Productivity)に置き換えることで浪費をなくすことができるという。

同氏は、もし我々がT1を完全にT2へと移行することができれば、環境への負の影響をゼロにすることもできると考えているという。そしてそれが1995年にはInterface社の具体的な計画となり、それ以来、2020年までにゼロ・インパクト、ゼロ・フットプリントを達成するという ”Mission Zero(ミッション・ゼロ)” としてこの計画は現在にいたるまで続いている。

同氏によれば、Interface社は過去12年間で温室効果ガスの排出量を82%削減し、同時に売上は3分の2も増え、利益は倍になったとのことだ。82%という数字は、売上に対する温室効果ガス排出量で見れば90%の削減に相当する。

また、同社は2004年以降、実に約71万?に相当する気候ニュートラルのカーペットを販売した。これはカーペット製造のサプライチェーン全体を通じて気候変動に対する悪影響が全くないことを意味しており、独立した第三者認証も受けている。同社はこれを”Cool Carpet”と呼んでおり、このCool Carpetが市場における強力な差別化要因となり、売上と利益を伸ばしてきたという。そして2006年には”Flor”というブランドで家庭向けのカーペットタイルの販売を開始している。

Interface社が掲げる ”Mission Zero” は、2009年時点ではまだその目標の半ばを少し超えたところだ。しかし同氏は、この ”Mission Zero” は優れたビジネスモデルを作り出し、大きな利益を生み出す方法として機能し、自社の事業に対して信じがたいほどの好影響をもたらすことに気づいたという。

サステナビリティの追求によって同社のコストは上がるどころか大きく下がり、浪費ゼロを追及した結果、約4億ドルのコスト削減に成功した。また、サステナビリティを追求したデザインによって同社の製品はかつてないほど優れたものになり、予期しえないようなイノベーションの源泉となった。

Interface社の崇高なビジョンは人々を刺激し、多くの人々を惹きつけ、市場から大変な好意を持って受け入れられた。同氏によれば、どれだけ大量の広告を出しても、どれだけ優れたマーケティングキャンペーンを考えたとしても、どれだけ費用をかけたとしても、この信用を作り出すことはできないという。それを可能にするのは、崇高な理念のもとにサステナビリティが統合された、優れたビジネスモデルだけなのだ。

実際にスピーチ内で紹介されている1994年?2007年までの過去14年間のInterface社の売上・利益推移グラフを見てみると、同社の業績は安定的に右肩上がりで伸びていることがよく分かる。2001年?2003年までの3年間は売上が一時的に17%落ち込んでいるが、この間、市場全体は36%も落ち込んでおり、この3年間で同社はさらに市場シェアを確保したところを意味している。

“Mission Zero” を掲げてサステナビリティに本格的に取り組みはじめて以来、実際に業績も好調を維持しているのだ。

しかし、全ての企業がInterface社のやり方を見習えば問題はすべて解決できるかというと、そうではないと同氏は言う。Ehrlich夫妻に独自の修正を加えた方程式にもまだ問題は残っているというのだ。ここでもう一度、Anderson氏が提唱したT2の方程式を見てみよう。

I = P * A / T2

上記の方程式では、A(Affluence:豊かさ)は資本としての豊かさを意味しており、それ自体が目的になってしまっている。しかし、この方程式を更に修正し、下記のようにしたらどうだろうか、というのが同氏の提案だ。

I = P * a / T2 * H

  • I:Environmental Impact
  • P:Population
  • a:Affluence
  • T2:Technology of the Future
  • H:Happiness(satisfying all basic human needs)

Aを小文字のaに置き換え、aは目的を達成するための手段だと考えたらどうだろう。ここでいう目的とは、Happiness(幸せ)のことである。Happinessを最大化するための手段としてのaffluence(豊かさ)を追求することで、Impactを小さくできないか、というのが同氏の提案だ。

上記の方程式にあてはめて考えてみると、より少ないAffluenceでHappinessを最大化できればできるほど、最終的なImpactは小さくなることが分かる。その逆に、Affluenceが増えたとしても、Happinessが増えない、もしくは減ってしまうのであれば、最終的にImpactを下げることは難しい。

この新たな方程式は、文明社会そのもの、現在の経済システム全体を再構築するということを意味する。同氏の表現を借りるならば、これは”Finite Earth(限りある地球)”のうえで”Infinite Future(永遠に続く未来)”を実現するための方程式なのだ。

Ray Anderson氏は、スピーチの最後に、一つの印象深いストーリーを私たちにしてくれた。それは、「企業や産業界がバイオスフィアの衰退をこのまま無視し続けたら、その結果として受け入れがたい危機に直面するのはいったい誰なのか?」という問いだ。

2020年の ”Mission Zero” に向けて長い山を登り始めたばかりの1996年3月のとある火曜日の朝、同氏はカルフォルニアでいつものようにミーティングをしていた。そしてアトランタに戻った約5日後に、そのミーティングに参加していたうちの一人、Glenn Thomasから、あるE-mailを受け取った。Glennのメールには、彼が火曜日のミーティング後に書いたオリジナルの詩が書かれていた。その詩を読んだときが、同氏の人生の中でもっとも感極まった瞬間だったという。そこには、上記の問いに対する答え、”Tomorrow’s Child” について書かれていた。GlennがAnderson氏に向けて書き綴った詩を紹介する。

Tomorrow’s Child © Glenn Thomas

Without a name; an unseen face
and knowing not your time nor place
Tomorrow’s Child, though yet unborn,
I met you first last Tuesday morn.

A wise friend introduced us two,
and through his sobering point of view
I saw a day that you would see;
a day for you, but not for me

Knowing you has changed my thinking,
for I never had an inkling
That perhaps the things I do
might someday, somehow, threaten you

Tomorrow’s Child, my daughter-son
I’m afraid I’ve just begun
To think of you and of your good,
Though always having known I should.

Begin I will to weigh the cost
of what I squander; what is lost
If ever I forget that you
will someday come to live here too.

私たちが地球を傷つけ、浪費を続けた結果、最後に危機に直面するのは、紛れもなく未来を生きる世代、まだこの世に生を授かっていない子供たちだ。Glennは、まだ見ぬ ”Tomorrow’s Child” たちに向けて、彼らが地球にやってきたときに見ることになるであろう世界の姿に思いを馳せながら、その世界をよりよいものにするのだという決意を込めて、詩を書き綴っていた。

Anderson氏の話を聞いたGlennは、”Tomorrow’s Child”に出会い、心を動かされたのだろう。Anderson氏は、彼の詩から彼が自分の考えを深く理解してくれたことを知り、強く感銘を受けた。

Tomorrow’s Childは、シンプルだが深遠なメッセージを私たちに訴えかけている。それは、「私たちはみな” web of life(生命の網)”の一部としてつながっており、そのつながりは未来へと延々と続いていて、私たちがこの美しい青い地球に訪れているとても短い時間のあいだに、それを傷つけていくのか、それを救うのか、すべては私たち次第だ」ということである。

Ray Andersonは、このスピーチから2年後の2011年の8月8日、Interface社とともに歩んだ長い旅の道のり半ばにして、癌でこの世を去った。そしてAnderson氏の家族らは、彼の誕生日でもある2012年の7月28日に、もともと同氏の個人的な慈善活動を目的として設立されたRay C. Anderson Foundationを、新たな目的とともに再開した。

今ではこの財団は同氏が残した意志を引き継ぎ、サステナブルな製品や消費を促進する革新的なプロジェクトへの資金提供を通じて、より輝かしいサステナブルな世界を作り出すことをミッションとして活動を展開している。

Tomorrow’s Childたちにこの美しい地球を残せるかどうかは、今この瞬間に地球上を生きている、私たち一人ひとりの手にかかっているということ。また、そのためには、Technologyを環境への負荷を増やすのではなく、減らすために使うべきだということ。さらにそれだけではなく、「豊かさ」の意味を再定義する必要があるということ。そして何より、そうしたサステナビリティへの取り組みは、企業・産業界にとってコストとなるどころか、多くの利益をもたらすのだということ。

Ray Anderson氏は、たった15分間のスピーチで数多くの大事なことを私たちに教えてくれている。5年が経過した今でも全く色褪せることがない、素晴らしいスピーチだ。下記サイトでは英語字幕もあるので、時間がある方はぜひ全編をしっかり味わってほしい。

【TED】 The business logic of Sustainability
【企業サイト】Interface

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